「まるで、人生のパートナーを探すように家具を探す」
これは、厳しく長い冬を暮らす北欧の人々ならではの家具に対する思いかもしれません。
暖かい地域の人々は、人生の大半を外で過ごすことになりますが、厳しい寒さの地域の人々は家の中で過ごすことが大半に。
だからこそ、より暖かく快適な住まいをつくり、機能的で自分に合った家具選びをする必要性があるのでしょう。
北欧の人々のインテリアセンスが優れていることや多くの優れた家具作家が輩出されている背景には、
北欧という厳しい気候条件と向き合って生きている人々の暮らしや家具に対する思いの深さの表れであるといえるかもしれません。
ハンス・J・ウェグナーは、1914年ドイツ(当時)南ユトランド・トゥナーで生まれました。
13歳から家具職人の下で修行を始め、17歳で指物師(木工の専門職人)マイスターを取得。
その後も国立産業研究所に通い、木材について専門に研究しながら20歳まで家具職人の下で修行を積みますが、兵役のためコペンハーゲンへ。
兵役終了後の23歳でコペンハーゲン美術工芸学校へ入学し、家具設計を専攻。
この頃出会ったボーエ・モーエンセンとはその後も親交を深めることになります。
卒業後はアルネ・ヤコブセンの事務所に勤務。その後独立して、1943年に代表作の一つである「チャイニーズチェア」が生まれました。
代表作には、世界で最も売れた椅子といわれている「Yチェア」、ケネディ大統領が使用して有名になった「ザ・チェア」、映画で使用された「サークルチェア」などがあります。
生涯で500以上のチェアをデザインし、多くの展示会に出展し賞を獲得。
その作品はニューヨーク近代美術館を始め、多くの機関でコレクションされています。
2007年92歳で逝去するも、彼の残したチェアは寡黙な紳士のように多くを語らず、それでいいて暖かく存在感があり、シーンを選びません。
彼の傑作の一つであるベアチェアは、1951年にデザインされたもの。
その名の由来も、「まるで大きな熊に後ろから抱き着かれているよう」だから。
大きな熊に身体を委ねて贅沢な時を楽しんでみてはいかかでしょうか。
ポール・モーエンセンは
1914年にデンマークのオールボーに生まれ
1934年(20歳)に家具マイスターの資格を取得。家具職人としてスタートしました。
1936年~1938年までコペンハーゲン美術工芸学校(家具科)
1938年~1941年まで王立芸術アカデミー(家具科)にて家具デザインを学びます。
1944年、友人のハンス・J・ウェグナーと共同で「スポーツバックソファ」を発表。
1950年独立し、設計事務所を開設しています。
ボーエ・モーエンセンの代表的な作品は、
デンマークFDB(生活協同組合連合会)の家具部門の責任者だった当時にデザインした「シェーカーチェア」です。
「シェーカーチェア」とは18世紀後半から19世紀にかけてニューイングランド地方のシェーカー教徒によって作られた「シェーカー家具」を起源としたもので、
第二次世界大戦中の原材料が不足する情勢下において、一般市民向けの安く品質のいい椅子という方針で作られた、
シンプルでありながら機能美と洗練されたフォルムを持つチェアです。
また、大使館や政府機関などに使用される重厚感の漂うソファも多く手掛けています。
デンマーク発の「Hygge(ヒュッゲ)」という言葉が現在欧米でも注目を集めブームになっています。
「ヒュッゲ」の意味するところは「居心地の良い時間や空間」。
デンマーク人は何百年と「ヒュッゲ」を実践しているのでしょう。
また、北欧諸国は幸福度が高いことでもよく知られていますが、今年(2018年)3月に国連から発表された「世界幸福度ランキング」では、1位から4位まで北欧諸国が占めています。
(1位フィンランド・2位ノルウェー・3位デンマーク・4位アイスランド。スェーデンは9位)。
日本はというと、残念ながら54位という結果になっています。前回(2016年)の発表ではデンマークが1位でした。
幸福度には、さまざまな要因が絡んでいるため、「ヒュッゲ」だけで幸福度がアップするとは限りませんが、個人的な日常の幸福度は向上させることができます。
日々の暮らしは家具と共にあります。言い換えれば「家具と暮らす」ということ。
こだわりを持って家具を選ぶというデンマーク人は、暮らしに欠かせない家具が人に及ぼす影響力を他の国の人々よりも良く知っていると感じてなりません。
一部屋にいくつものチェアを置き、その日の体調や気分によってチェアを選ぶという人も多いそうです。
デンマークの巨匠たちがデザインした上質なチェアに癒されながら、あなたも自分なりの「ヒュッゲ」を体現してみてはいかがでしょうか。